熟年離婚のメリットとデメリット
🌸日本は離婚大国?!
日本では離婚大国!3組に1組が離婚する!と言われています。
離婚率は人口1,000人当たりの離婚件数を集計したものであり、日本の令和3年では1.50となっています。
※参考元:令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/index.html
このデータを他国と比較すると、世界的には日本の離婚率は決して高いものではありません。
では何故日本は離婚が多いと言われるのでしょうか?
別なデータ(婚姻件数と離婚件数の比較)を見てみます。
こちらでは令和3年(2021年)の年間婚姻件数は501,116 組、年間離婚件数は184,386組となっており、離婚件数を婚姻件数で割ると36.8%となり確かに35%を超えます。
※参考元:令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
これが3組に1組が離婚!と言われる背景にあり、最も大きな要因として「熟年離婚」の問題がクローズアップされています。
🌸熟年離婚が増えている
一般的には婚姻期間が20年以上の夫婦が離婚することを「熟年離婚」と呼んでいます。
令和3年においては離婚件数は184,386組であり、そのうちの約21.1%の38, 968組が熟年離婚となっています。
※参考元:令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
前年の令和2年においては、婚姻件数525,507組、離婚件数は193,253組であり、件数自体は令和3年に減少しています。
しかし熟年離婚の件数は38, 981組であり、令和3年とほぼ変わりません。
つまり、令和3年においては熟年離婚の割合=熟年離婚率が増加しているのです。
特に婚姻期間が25年以上の夫婦では令和3年の件数が令和2年を上回っており、婚姻期間が長いほど熟年離婚が増加しつつあることが見て取れます。
この傾向は長年継続しており、昭和60年(1985年)には12.3%だった熟年離婚率は、平成17年(2005年)には15.4%となり、令和3年には21.1%にまで上昇しています。
本来は人生のゴールデンタイムとも言える安らぎの時間は、仕事をリタイアした老後にこそあるのだと思います。
子育ても家のローンも終わり、穏やかに楽しい時間を過ごすべき時期に、こんなに多くのカップルが離婚しているというのは、ある意味悲しい現実と言えるでしょう。
熟年離婚が増えて来た背景にはいくつかの要因があります。
一つは女性の社会進出により、40代以降も収入基盤のある方が増え、離婚後に困窮することがなくなってきたことです。
かつて専業主婦が中心の時代には耐えるしかなかった方も多くいらっしゃったのだと思いますが、社会構造の変化により女性の自立化が進んだことが大きな要因と考えられています。
二つ目は平成20年度からスタートした「離婚時年金分割制度」です。
年金分割すれば年金が一定額増えるので、専業主婦やパートの人でも離婚しやすくなりました。
三つ目は高齢化です。
老後が長くなり夫婦で暮らす時間が伸長したことで、将来に向かって希望を感じられない人が増えたのです。
子供の為に耐えて来た人も、子供が巣立てば残りの人生は自由に暮らしたいと思うものです。
また、合わない相手の老後の面倒は見たくないと思う人もいるのでしょう。
このような理由により熟年離婚が増加し、それが要因となり離婚する人が増えた印象となっていることが考えられます。
日々多数の離婚のご相談を受け続けている中で強く感じるのは、熟年離婚は明らかに年々増加しているということです。
記載してきた3つの理由が主たる要因ですが、現場の感覚から申し上げれば、特に高齢化の進展が拍車をかけているように思います。
そしてこれらの要素に加え、新たな要因も加わっていることを肌で感じます。
🌸夫源病、妻源病、コロナの影響も?!
最近の熟年離婚のご相談の中で、新たな傾向と感じるのは、夫源病、妻源病の存在、そしてコロナの影響です。
夫源病(ふげんびょう)とは、夫の言動などが原因で妻が過大なストレスを感じた結果、妻の心身に不定愁訴(倦怠感、頭痛、微熱感、不眠など体調悪化に自覚症状があるが、検査をしても原因がわからない状態)が生じる状態を指します。
この夫源病という言葉は、医師の石蔵文信氏が2013年に著書「いつまでたっても更年期が終わらない…… 奥さん、それは「夫源病」ですね。」で発表した概念であり、医学的な病名ではありません。
夫源病は、夫の休日になると妻のストレスが増加し体調不良となることなどから発見され、熟年離婚が増加していることの一つの原因とされています。
また、逆に妻が原因で夫の体調が悪化するケースは、「妻源病(さいげんびょう)」と呼ばれており、どちらも増加傾向にあると言われています。
そして近年確かに、ご相談に来られる方の中に、この夫源病、妻源病の傾向を有した方が増えているのです。
また、「コロナがきっかけ」と仰る方もいらっしゃいます。
うがい、手洗い、消毒などの衛生対策や、飲酒、付き合いの制限など、コロナに対する家庭内の対策に関する意見の対立は、基本的な価値観の違いを浮き彫りにし、やがて修復できないほどの溝を生むことがあります。
相手が原因で家庭内で感染が広がったケースなどでは尚更です。
また、もう一つは「夫婦が一緒にいる機会・時間が圧倒的に増えた」ことです。
休日に外出できず自宅で顔を合わせることが多くなったこともありますし、リモートワークなど自宅で仕事をすることが増えたこともあるでしょう。
実はこれらは、私たちが今までほとんど経験したことのないような状況なのです。
特に長期間続くリモートワークは今までやったことがない方も多いと思いますし、PCなどを使ったWEB会議も増えている現状では、家庭が仕事場になってしまうこと自体が大きなトラブルの原因となっているのです。
人は環境が変わることでストレスを感じます。
今までと大きく違う生活パターンとなってしまうのは、想像を超えるストレスであると言えるのだと思います。
これらの要因により家庭内の様々な感情的なもつれから、極めて不満が高まり易い状況になっていることで、夫婦間に大きなひびが入るケースが多いのでしょう。
また、夫源病、妻源病が増加していると言われる要因の一つが、このコロナによる価値観の相違であることも十分に考えられます。
これらの複合的な影響が、熟年離婚の増加につながっているのではないでしょうか。
🌸熟年離婚のメリット
1.悩みやストレスから解放され自由に生きることができる
例えば定年後などでは、一緒にいる時間が激増します。
仕事をしていた時期には週末くらいであったものが、毎日顔を突き合わせ暮らすことになるのです。
するとお互いのイヤな部分がより気になってしまい、ついには顔を見ることすら苦痛になってしまったりするものです。
熟年離婚の多くは、このように老後を一緒に過ごすイメージが持てなくなってしまったケースが多いのです。
離婚をすればこのような相手から感じるストレスは霧消し、自由な生活を手に入れることができます。
限りある老後の時間を自分の好きなように使えるのは、最大のメリットと言えるでしょう。
2.配偶者や配偶者の親の介護をしなくてよくなる
高齢化社会においては介護の問題は深刻です。
特に女性の方にとっては、平均寿命が長い分かなり大きな確率で配偶者の介護をすることとなります。
愛情を持っていない相手の介護をするのは辛いものです。
熟年離婚を選択された方の中には「相手を介護するイメージが持てない」と仰る方もいます。
長い老後の人生を、家事に加え介護に時間を費やしただけで終わってしまうのは耐え難いと思う気持ちもわかります。
また、相手の親の介護も大変な問題です。
このようなストレスから解き放たれるために、熟年離婚を選択する方もいらっしゃるのが現実です。
3.再婚など人生をやり直すチャンスを得ることが出来る
熟年離婚して再婚など新しいパートナーを得る方も多くいらっしゃいます。
既にそのような相手を心に秘めているケースもあるでしょう。
また、相手はいないものの、探してみたいと思っている方もおられると思います。
若い頃に戻りたいと思ってもそれは出来ませんが、第二の人生はどんな年齢からも探せるものです。
本当に気の合った相手と巡り合えるなら、それが一番良いことなのだろうと思います。
🌸熟年離婚のデメリット
1.経済的に困窮する可能性がある
最も大きなデメリットとして挙げられるのがお金の問題です。
例えば妻の側が熟年離婚をした場合、新たな就職先を探さなくてはならないケースがあります。
年齢によっては思ったような仕事が見つからず、生活が困窮する可能性もあるのです。
年金も一人となると十分なものではありません。
離婚時に年金分割をした場合どのくらいの金額になるのか、財産分与の取り分など、しっかり事前に考えておく必要があるでしょう。
2.離婚後に一人だけの孤独な人生となる可能性がある
離婚した後、たった一人で孤独な老後を過ごさなくてはならないかも知れません。
お子さんがいる場合や、その他の家族や友人との関係性などで状況で変わりますが、一人ぼっちで生きていくことは辛いものです。
ご自身の老後の面倒をみてくれる人がいるのか、施設に入居する十分な資力があるのかなど、置かれた環境を念頭に判断すべきと思います。
3. スムーズに離婚できないケースも多い
熟年離婚では相手の同意がなかなか得られずスムーズに離婚できないケースも多く発生しています。
浮気など明確な離婚原因があれば裁判での離婚も可能ですが、「愛情が持てない」というような曖昧な理由では相手の同意が得られない限りすぐには離婚が成立しないのです。
また熟年離婚でよくトラブルとなるのが「財産分与」の問題です。
婚姻期間が長いので、不動産、自動車、保険、退職金、預貯金、株式等の共有財産が高額となっているケースも多く、協議が難航する場合もあります。
このため、弁護士などの専門家に委嘱するような解決方法もよく用いられています。
🌸熟年離婚を決断する時のポイント
現実的に考えるのであれば「経済問題」は最も大きなポイントです。離婚した後の生活設計が成り立つのかということをしっかり検討し、判断の材料とすべきです。
例えば相手にDV(ドメスティックバイオレンス=家庭内暴力)やモラハラ(モラルハラスメント=言葉の暴力)の事実や、浮気など、具体的に離婚原因となる問題がある場合は、何を置いても早期の離婚を決断すべきですが、はっきりした理由がない場合は「経済問題」についてより真剣に考えておくべきであると思います。
既に新しいパートナーを想定している場合など、経済問題がクリアとなるのであれば前向きに進むべきでしょう。
また事情によっては単に別居することを選択するのも一つの方法です。
離婚はせずに別居してお互いに干渉せず暮らすことで、離婚と同じ効果を得ることが出来るケースもあるでしょうし、離婚する前のステップとして別居を始める方もいらっしゃいます。
現代においては、婚姻関係を維持しながらも、夫婦がお互い自由に生活していく「卒婚」という新たな概念も生まれています。
お互いが合意できるのであれば、離婚だけをゴールとせず、様々な選択肢を検討してみることも頭に置いてください。
🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら弁護士に相談を
熟年離婚は経済問題など、現在の状況、置かれた環境に左右されやすく、判断に迷う方も多いものです。
それでも長い人生の後半部分は、それまでの苦労が報われ、より穏かに愉しく暮らしたいと考え、解決策を離婚に求めるのはとても自然なことだとも思います。
特に「一緒に老後の人生を送るのは無理」「老後の面倒を看るイメージが全く持てない」など、生理的な拒否感とも言える感情を持たれている方にとっては、一緒にいるだけで苦痛を感じてしまい辛く苦しい日々を送っているのだと思います。
それぞれの案件で対応策は変わってきますので、頭の中を整理するためにも、一度弁護士などの専門家への相談をお薦めします。