離婚協議書を公正証書にするメリットと注意点
兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。離婚する際には、財産分与、親権、養育費、慰謝料などの項目について双方で話し合い条件を決定します。そしてこれらの事項を記載した文書が離婚協議書です。離婚協議書は公正証書にすることが推奨されていますが、なぜなのでしょうか?
🌸公正証書とは?
公正証書とは、公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書のことです。公証人は、裁判官や検察官、法務局長などを永年勤めた選ばれた法律の専門家であり、準公務員という扱いとなっています。
「公正証書」には証明力があり、執行力を有しており、安全性や信頼性に優れているという位置づけとなっています。
そして原本が公証役場に保存されるため、紛失や偽造のおそれがありませんし、偽造しても原本を確認すればすぐに発覚してしまいます。
また、離婚協議書を公正証書にする場合、その内容が法的に認められたものでなければ作成できませんので、法的効力が約束されたものとなります。
一方、公正証書として作成しなかった離婚協議書は単なる私文書となります。
双方が合意しサインしていたとしても、その内容に法的にな不備があれば、後の争いにつながることが懸念されます。
🌸離婚協議書を公正証書にした場合のメリット
また、強制執行認諾文言付き公正証書にしておくことは、相手への心理的圧力として機能する側面もあります。
相手も当然「給与の差し押さえ」のリスクを認識します。
差し押さえの手続きが始まれば、勤務先にも知られてしまい、社会的信用が落ちてしまいます。
また、所有している不動産などにも効力が及ぶことが懸念されますので、極力条件を守ろうとするはずです。
そしてもう一つ「財産開示手続が利用できるようになる」という点も見逃せません。
2020年4月に改正民事執行法が施行されたことによって、離婚協議書の内容を公正証書にしておけば、「財産開示請求」の手続きがスムーズに行えるようになりました。
これは債務者の財産がどこにどのくらいあるのかを債権者が知ることが可能となる手続きであり、裁判所に対して債権者が財産開示手続を申し立てると、債務者が裁判所に出頭して財産の情報を述べなければならないのです。
これを債務者が拒んだり嘘の情報を伝えた場合には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則が課されるようになっています。
そして公正証書があれば、「第三者からの情報取得手続」という手続きも可能です。
これを裁判所に申し立てることで、銀行や日本年金機構等から債務者の財産についての情報を得ることができます。
養育費の不払いなどで強制執行を行う場合、差押えを行う銀行口座や給与を特定する必要がありますが、相手の情報がわからなければ実際問題手続きは進みません。
銀行や日本年金機構が有している情報を、所定の手続きで開示してもらえるようななったことで、スムーズな差し押さえが可能となっています。
🌸公正証書を作成する際の注意点
この点には十分な注意が必要です。
そして、強制執行認諾文言付き公正証書があっても、相手に財産がなければ受け取れないことも留意しなくてはなりません。
もし、相手が無職で貧窮しており財産もなければ差押えはできないのです。
また、作成するために一定の費用がかかります。
作成する書面の中で記載される価額によってかかる手数料は異なりますので、手数料をあらかじめ知りたい場合は、内容決定後にお近くの公証役場へお問い合わせください。
そして公正証書を作成するためには、夫婦が条件についてしっかり協議して内容を決めておく必要があります。
内容に不備があれば公正証書を作成してもらえない可能性もありますので、不安や疑問がある場合には事前に弁護士などの専門家にご相談ください。
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🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら弁護士に相談を
離婚する際の離婚協議書の作成と公正証書化はとても重要です。
様々な状況により離婚を急ぐ余りこれらが疎かとなると、離婚後に大きなトラブルに見舞われるケースもあるのです。
まずは、離婚の前に一度弁護士などの専門家にご相談されてみてください。
的確なアドバイスを受けることで、道が拓けることも多くあります。