離婚時に夫の借金は財産分与の対象となるか?|西宮尼崎芦屋の弁護士ブログ

 


離婚時に夫の借金は財産分与の対象となるか?


兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。離婚する際には夫婦で築き上げた財産を公平に分け合う「財産分与」を行います。しかしその際に夫(配偶者)に多額の借金があったようなケースはどうなるのでしょうか?まとめてみました。



🌸借金を理由に離婚できるか?


配偶者が浪費やギャンブルなどで借金を繰り返しているようなケースでは、家庭生活が立ち行かなくなることもあります。


そのような場合「配偶者の借金」を理由に離婚は可能でしょうか?


協議離婚、調停離婚で合意に至れば問題はありませんが、相手が同意しない場合には裁判に進むこととなります。

裁判に進むと、裁判所は法的に離婚が認められるかどうかを判断します。


離婚の訴えを提起することができる場合として、民法770条1項は、以下のとおり規定しており、これらの5つを「法定離婚事由」と呼びます。


1.配偶者に不貞な行為があったとき

2.配偶者から悪意で遺棄されたとき

3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき

4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき

5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき


このいずれかに該当しなければ、裁判所は離婚を認めてくれないのです。


これを夫の借金に当てはめると、夫が働けるにもかかわらずギャンブルばかりして、家にも帰らずに借金を繰り返しているケースなどには2の「悪意の遺棄」によって離婚が認められる可能性があります。


そして、夫が妻に生活費を渡さない場合や、別居していて生活費(婚姻費用)も支払わない場合にも、悪意の遺棄と判断されて離婚できる可能性があるでしょう。


また、夫の借金が原因で夫婦関係が破綻しているようなケースでは、5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当し離婚が可能となることも考えられます。


しかし単に夫が借金しているというだけでは、この事由に該当はしません。


多額の借金があったとしても、しっかり働いていて生活も成り立っているならば、離婚裁判をしても離婚できないでしょう。


しかし、夫がギャンブルなどで借金を繰り返し、家族の生活が破綻していると考えられるケースではこの事由に該当する可能性があります。


また、借金が原因で不仲となり夫婦が別居して期間が経過し結婚生活の実態がなくなっている場合などでは、離婚が認められる可能性があります。


このようにただ借金をしているという事実だけでは離婚はできませんが、他の事情を考慮し離婚が成立することは多くあります。



🌸離婚時に夫の借金は財産分与の対象となるか?



離婚が成立した場合、次に問題となるのが夫の借金の取り扱いです。

離婚時の財産分与に配偶者の借金はどのように影響を及ぼすのでしょうか?


離婚の際には、財産分与を行い夫婦の共有財産を、基本的には夫婦が2分の1ずつ分け合いますが、配偶者の借金は基本的に財産分与の対象に含まれません。

 

財産分与の対象は、あくまでプラスの財産だけなのです。


また、金銭貸借契約をしたのが配偶者であれば、返済義務は契約者本人のみです。

妻自身が借入をしていない以上、債権者が妻に対して支払いを請求する根拠がありません。


もし離婚協議の際に、配偶者から借金の一部負担を要請されても断って問題ありません。



🌸連帯保証人、連帯債務者の場合は責任が及びます

財産分与には含まれないものの、配偶者の借金が影響を及ぼすケースもありますので注意が必要です。


配偶者が単独で借金をしたケースでは、前述の通り全く責任は及びませんが、連帯保証人となっているような場合には責任を負わなくてはなりません。


連帯保証人とは、主債務者と同様に責任を負い、その負債について全額の支払い義務を負う人を指します。

例えば自宅を購入するときに住宅ローンでは、妻が夫の住宅ローンの連帯保証人になっているケースが多くあります。


この場合には、主債務者である夫から住宅ローンの返済がなされなければ、債権者は連帯保証人である妻に対して全額の支払い請求を行います。

連帯保証人は、ローンの全額を支払う必要がありますが、支払った分は後に夫に対して返還請求が可能です。


また、妻が夫の負債の連帯保証人ではなく「連帯債務者」となっているケースもあります。

連帯債務とは、複数の債務者が全体の負債の返済義務を負うことであり、住宅ローン借入をする場合などに妻を連帯債務者とすることもあります。


この場合、離婚後に債権者から支払い請求が来た際には、妻にも残ったローン全額の支払い義務が生じていますが、自分の負担割合を超えて支払いをした場合には、その超過分は夫に対して返還請求することが可能です。


このように、連帯保証人、連帯債務者になっているか否かで扱いが全く変わりますので、しっかり確認しておく必要があります。



🌸借金の原因にも注意が必要です

ギャンブルや浪費など、配偶者本人だけのための借金であれば別ですが、もし生活費など婚姻生活を送る上で必要となった借金であれば、扱いが変わってきます。


民法761条では、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負うとしているのです。


日常生活を送る際に発生した「日常家事債務」を夫婦の一方が負った場合には、法律上連帯債務が発生すると考えられています。


日常家事債務とは、夫婦生活を維持するために必要に応じて負担した債務です。

家賃や光熱費、食費や最低限の被服費、子どもの教育費、生活必需品を購入するために負った債務はこの日常家事債務に該当します。


そしてこの日常家事債務に基づく連帯責任は、夫婦が離婚した後も残りますので、離婚後も妻に責任が及び、支払いをしなければならない可能性があります。



🌸夫の借金は子どもに引き継がれるか?

離婚時に未成年の子どもがいる場合、母親である妻が子どもを引き取って親権者となることが多くあります。

その場合には、妻が夫の借金に関与しないケースだとしても、子どもに夫の借金が引き継がれてしまう可能性があります。

夫が亡くなったときには子どもが夫の相続人になるからです。


夫が借金した状態のまま死亡したケースでは、子どもが法定相続分に従って夫の借金を負担しなければならないのです。


その額は離婚時ではなく、夫の死亡時に残っていた借金額です。


この夫の借金については、相続放棄の手続を取ることで負担を逃れることが可能ですが、この手続きは、相続人であることを本人が知った日より3か月以内に行う必要があるため注意が必要です。


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🌸元夫が借金をしていても養育費はもらえるか?


夫が借金していたり経済的に困窮している場合に、子どもの養育費をきちんと支払ってもらえるか心配になる方もいらっしゃると思います。


しかし借金があったとしても、当然養育費の支払い義務はあります。


養育費は生活保持義務という非常に強い義務であり、夫が借金の返済などで経済的に苦しい状態であったとしてもそのようなことは度外視して、養育費を請求することが可能なのです。


例えば元夫が自己破産したとしても、養育費の支払い義務が免除されることはありません。


ただし、元夫に養育費の支払能力が無くなった場合には、先方から養育費減額調停を起こされる可能性があります。

養育費減額調停が申し立てられると、家庭裁判所で養育費の金額を決め直すこととなります。


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🌸まとめ:困ったり迷ったりしたら弁護士にご相談ください。

夫の借金は、その種類や原因によっては離婚後も妻に引き継がれてしまう可能性がありますので注意が必要です。


住宅ローンやその他の借入について、連帯保証や連帯債務の有無をしっかり確認する必要がありますので、離婚手続きを進める前に、各種の契約書を綿密にチェックしておきましょう。


離婚後思わぬ不利益を受けないようにするためには、離婚時に負債の状況などをきちんと話し合い、対処方針を共有しておくべきです。


もし困ったり迷ったりした場合には、専門家である弁護士にご相談ください。

当事務所でも承っております。