妻からのDVを受けた時、夫はどう対処すべきか?|西宮神戸尼崎の弁護士ブログ

 


妻からのDVを受けた時、夫はどう対処すべきか?


兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。離婚原因を10年前と比較してみると、「妻から夫へのモラハラ、DV」だけが大きく増加していることがわかります。増え続ける妻からのDVに、夫はどう対処すべきでしょうか?離婚を検討する場合の留意点は?まとめてみました。


🌸はじめに

最高裁判所では毎年離婚に関する原因別データを開示しています。


これは「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」というデータで、申立人が離婚の動機のうち主なものを3個まで挙げる方法で調査重複集計しています。


そこで、令和2年の離婚原因と、10年前の平成21年の数値を比較してみたところ、申立ての件数が大きく減少する中、逆に増加している項目がありました。


それは女性から男性へのモラハラとDVです。


※出典:「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」

https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/253/012253.pdf

(注)申立ての動機は,申立人の言う動機のうち主なものを3個まで挙げる方法で調査重複集計。



🌸男性へのモラハラ、DVだけが増加!


【令和2年離婚原因別ランキング男性】

※( )内は平成21年と令和2年を比較(令和2年/平成21年として算出)、順位は平成21年との比較


男性の申立て件数合計15,500件←19,027件(81.4%)


1位「性格の不一致」9,240件←11,445件(80.7%)

2位「精神的に虐待する」3,159件←2,591件(121.9%)4位から2位へ↑

3位「異性関係」2,132件←3,395件(62.8%)2位から3位へ↓

4位「家族の親族と折り合いが悪い」1,964件←2,878件(68.2%)3位から4位へ↓

5位「浪費する」1,883件←2,560件(73.6%)

6位「性的不調和」1,740件←2,430件(71.6%)

7位「暴力を振るう」1,454件←1,434件(101.4%)8位から7位へ↑

8位「同居に応じない」1,359件←1,729件(78.6%)7位から8位へ↓

9位「家庭を捨てて省みない」764件←1,174件(65.1%)

10位「生活費を渡さない」686件←544件(126.1%)11位から10位へ↑


男性の離婚申立ての原因の2位は「精神的に虐待する」=モラハラです。


離婚申立て件数はこの10年間で81.4%と大きく減少していますが、モラハラは121.9%と大幅に増えています。


また、「暴力を振るう」=DVも101.4%と増加しており、他の理由のほとんどが減少する中で、モラハラ・DVが突出しているのです。


一方、女性の申立て件数を見て行くと、「精神的に虐待する」=モラハラは86.8%と減少し、「暴力を振るう」=DVにいたっては58.9%と激減しています。


このように離婚原因におけるモラハラ、DVの増加は、男性だけの顕著な傾向なのです。


また、警視庁が発表しているデータ「配偶者からの暴力事案の概況」においても、男性が受けるDV被害だけが毎年増え続けていることがわかります。


平成28年の男性の相談件数は953件でしたが、毎年増加し続け、令和2年には1,800件とほぼ倍増しているのです。

※出典:配偶者からの暴力事案の概況(警視庁)

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/jokyo_tokei/kakushu/dv.html#cms1jokyo


このように、女性から男性へのモラハラやDVが離婚原因の上位に位置される現状の中で、男性が気をつけるべきことは何があるのでしょうか?


例えばDVは「男性から女性への暴力」というイメージがあることから、逆に「女性から男性への暴力」を「逆DV」と呼ぶこともあります。


妻からのDV=逆DVの被害に遭っているケースでは、適切な対応をとらないと、男性側が不利になってしまうことが懸念されます。



🌸妻からのDVの具体例


本記事でお示した「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」、「配偶者からの暴力事案の概況(警視庁)」のデータは身体的な暴力を指していると思われます。


しかし配偶者暴力防止法(いわゆるDV防止法)では、物理的な暴力だけでなく精神的暴力も対象としています。


第1条

・身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの

・これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動


この「心身に有害な影響を及ぼす言動」が、精神的DVに該当する行為とされています。


一方モラハラは「精神的な嫌がらせ」を指します。

モラハラのモラルはフランス語で、「精神の」という意味であり、ハラスメントは「嫌がらせ」「悩ませること」と解されます。


モラハラは、「精神的な嫌がらせ」なので、その中に「精神的な攻撃行為」である精神的DVが含まれているとご理解ください。


このように本来DVには、殴る、蹴るなどの身体的暴力意以外にも、精神的暴力、性的暴力、経済的暴力、社会的暴力等、様々な種類の暴力が含まれます。

妻からDV被害を受けている場合、男女の対格差もあり、直接的な身体的暴力よりも精神的暴力を受けているケースも多くあります。


具体的な例としては、人格の否定、子供に夫の悪口を言う、夫の親に夫の悪口を言う、事あるごとに強く謝罪を要求し追い詰める、お小遣いを制限する(経済的暴力)などがよくあるケースです。


また、直接暴力を奮わなくても、物を投げたり、家具を蹴飛ばして暴れたり、刃物を持ち出し威嚇したりする行為も多くあります。



🌸妻からのDVの被害に遭っている場合の留意点


妻からのDVの被害に遭っている場合には、気をつけて対応しないと夫側が不利になるケースがありますので注意が必要です。


では一体どのような点に留意すべきでしょうか?


一つは安易に家を出て別居しないことです。

精神的に追い詰められ、家を飛び出して別居したくなるのは当然ですが、その場合金銭面で問題を抱えることが懸念されます。

妻の生活費(婚姻費用)は別居中であっても負担しなければならないためです。

妻が専業主婦や、夫の方が妻よりも収入が多い場合には、婚姻費用を請求されることを念頭に置いてください。


また、妻の同意を得ずに強引に別居した場合には、「悪意の遺棄」(法定離婚事由の一つ)に該当するとして、慰謝料請求の対象となってしまう可能性もあります。

妻のDVを立証する証拠を固めておけば、「悪意の遺棄」の認定を避け得ますので、事前に準備をしてから別居を検討すべきです。


もう一つは、感情的になって手を出してやり返したりしないことです。

その場合、双方がDVを主張することになり、その場合は女性が有利な判断をされがちなのです。

例え元々は相手のDVが原因であったとしても、夫側に主張が認められるとは限らないのです。



🌸離婚を考えたら証拠を集める


DVを理由に離婚を考えた時には、事前に証拠を集めることはとても重要です。


妻との離婚交渉が進まず、協議離婚できない場合は、調停を経て裁判になることも想定されます。

その場合、DVを立証する証拠を持っていなければDVが認定されず、離婚請求も慰謝料請求も裁判所に認めてもらえないことが考えられるからです。


証拠としては、以下のものをイメージして収集してください。


1.写真や動画

DVを受けたことがわかるような写真や動画は証拠になり得ます。


2.音声データ

相手が暴言を吐いたり、暴れたりした時の音声データも録音しておきましょう。


3.日記

日記に具体的な相手からの暴力や暴言の記録をつけておくことも、有効となる場合があります。


4.医師の診断書

医師の診断書は信用性が高いため、強力なDVの証拠となり得ます。

相手の暴力によって怪我をした場合には、軽傷であっても病院に行って診断書を作成してもらい、曖昧にせずに「妻の暴力」と正確な事情を説明してください。


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🌸離婚する前にやるべきことは?



妻がDVをする原因はなんでしょうか?

夫への不満、子育てのストレス、夫の親族との諍い、更年期障害など、様々な要因が考えられます。


もし、夫婦関係の修復を望んでいるのであれば、妻にカウンセリングを受けさせるという方法も考えてみる必要があります。


専門家のカウンセリングにより、妻のDVが改善された例もありますので、離婚を進める前の最後の望みとしてご検討ください。


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🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら弁護士にご相談ください。

妻のDVにより離婚を検討している場合は、弁護士など専門家へのご相談をお薦めします。

妻のDVによる離婚は、DVの認定がやや難しいケースもありますので、証拠集めなどを周到に準備する必要があります。


離婚を急ぐあまり強引に行動を起こすことで、後々不利な状況に陥ってしまうことも懸念されますので、まずは現状を弁護士などの専門家に詳しく相談して、アドバイスをもらうことから始めるのが賢明です。


当事務所でもご相談を承っております。