養育費不払い問題のポイントと差押える方法|西宮尼崎芦屋の弁護士ブログ



養育費不払い問題のポイントと差押える方法



兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。母子家庭への養育費は4人に3人が受け取っていないそうです。どうしてこの養育費不払い問題は起きるのか?また、そんなケースで、相手の給与を差し押さえて未払いの養育費を回収するにはどうしたらいいのでしょうか?まとめてみました。


🌸母子家庭への養育費は4人に3人が不払い?!

厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」※によれば、養育費を受給している母子世帯の母は24.3となっています。

※参考元:「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要について」

※この調査は5年に1度行われており、直近では令和3年に実施されましたが、結果はまだ公表されていません。


母子世帯の平均年収は243万円となっており、母子世帯のうち4人に3人は養育費が受け取れていないというこの事実が、母子家庭の貧困率が高止まりしている理由にも関連しているものと考えられます。


では、一体どうしてこんなに多くの方が、受け取るべき養育費を受け取っていないのでしょうか?



🌸養育費を受け取っていない理由


まず、母子家庭となった理由ですが、離婚が79.5%、未婚の母が8.7%、死別が8%となっています。

このうち養育費の取り決めをしている世帯は42.9%に止まっており、過半数ではそもそも養育費に関する取り決めができていません。

養育費の取り決めが出来ていない理由としては、「相手と関わりたくない31.4%」、「相手に支払う能力がないと思った20.8%」、「相手に支払う意思がないと思った17.8%」の3つが上位となっています。

また、養育費の取り決めを行っている世帯では、文書ありが73.3%、文書なしが26.3%となっており、文書ありのうち「判決、調停、審判など裁判所における取り決め、強制執行認諾条件付きの公正証書」は58.3%、その他の文書は15.0%となっています。

※参考元:厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」

これらの数値から類推すると、「判決、調停、審判など裁判所における取り決め、強制執行認諾条件付きの公正証書」については、概ね取決めに基づき養育費が支払われているものと考えられます。

ですからこの問題の本質は、取り決めた養育費が不払いになっていることに対する対応よりも、いかに養育費の取り決めをする比率を上げるかと、取り決めをする場合に「強制執行認諾条件付きの公正証書」にできるかということなのです。

特に「養育費の取り決めをする比率を上げる」というのが最大の課題です。

取り決めが出来ていない場合の最大の理由である「相手と関わりたくない」というのは、DV、モラハラなどの深刻な被害を受けたケースも含まれているのではないかと考えられます。


相手に住所などを知られたくない方もいらっしゃるでしょう。


様々な理由で請求が難しいケースもありますが、基本的には養育費は離婚後であっても請求は可能です。



🌸取り決めをしていなくても離婚後に養育費を請求できるか?

養育費支払いの義務は、子どもが経済的に自立するまで続きますので、離婚時に取り決めしていなくとも、基本的には離婚後も請求が可能です。


また、一旦養育費の請求権を放棄したとしても、その後に事情の変化があったと認められる場合には請求できるケースもありますし、子ども自身が請求できるケースもあります。


手順としては元夫婦間で協議をした上で、まとまらない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停の申立てを行います。


調停では、調停委員に間に入ってもらい話し合いを進めますが、調停でも合意に至らなかった場合には自動的に審判に移行することになります。


また、弁護士に委任すれば弁護士が代理人として交渉に当たりますので、本人は相手方と接触しないで進めていくことも可能です。


この場合、過去に遡っての養育費の支払は認められないことが多く、「調停で養育費を請求した後に新たに発生する養育費」が対象となる可能性が高いです。



🌸未払いの養育費を差し押さえができる条件


しかし中には養育費の支払いをきちんと約束していたにもかかわらず、途中から支払われなくなるケースも一定存在しています。

そんな場合に、未払いの養育費について、相手の給与などを差し押さえることはできないのでしょうか?結論から申し上げれば、一定の条件を満たせば差し押さえは可能です。

以下の3つの条件のすべてを満たしているかどうか、事前に確認しておきましょう。


1.相手に支払い能力がある

当然のことですが、相手に収入や財産がなければ差し押さえはできません。
相手の仕事の状況などは事前に確認しておく必要があります。


2.相手の現住所がわかっている

相手の現住所がわからない中で強制執行をするのは困難です。
もし相手の所在が不明の場合は、住民票の調査から始める必要があります。

しかし例えば住居を転々としていた場合でも、勤務先などから居場所を特定することができるケースもあります。

また、年金事務所では年金や健康保険の取扱いを行っていますので、勤務先の特定ができる場合もあります。

その他、一定の情報を元に居場所を突き止められるケースもありますので、居場所がわからなくても諦めず弁護士に相談してみましょう。


3.債務名義を持っている

養育費の差押えをするには債務名義を持っていることが条件なっています。

債務名義とは、裁判所の判決や金銭債権等に関する公正証書(履行期経過後はただちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの)のことです。

協議離婚などの際に相手との間で交わした「覚書」や「契約書」は、公正証書にしていなければ債務名義になりません。

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🌸相手の勤務先からの給料を差押えできる



従来は債務名義を持っていたとしても、相手と音信不通になることで支払われなくなるケースは少なくありませんでした。

しかし現在は法改正によって、財産開示制度の強制力が強化され、第三者(各自治体や厚生年金等を扱う団体、銀行や証券会社などの金融機関)からの情報が取得できるようになっています。

そして取得した情報により、相手方の勤務先に対する給料債権を差し押さえて取り立てることが可能となるのです。

また法律では、未払いの養育費と併せて、支払期限の未だ到来していない将来分の養育費に関しても、合わせて差押えの申立てをすることが認められています。

ですので、この申立てをしておけば、毎月の支払期限が到来する度に、差押えの申立てをする必要はありません

一方、将来にわたる任意履行が見込まれる場合には、将来部分の差押えは取り消される可能性があります。

そしてこの給料債権の差し押さえは、相手の給与手取り(額面給与から税金・社会保険料・通勤手当等の控除分を差し引いた金額)の半分まで差押えが可能です。

また、相手の給料の手取り額が66万円を超える場合には、手取り額の半分ではなく手取り額から33万円を引いた全額を差し押さえることができます。

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🌸法務省養育費不払い解消に向けた検討会議での論議


令和2年12月24日に公表された「養育費不払い解消に向けた検討会議・取りまとめ
(~子ども達の成長と未来を守る新たな養育費制度に向けて~)」では以下の問題点が指摘され、改善に向けた対策が検討されています。

公表された文書では、民法の中に養育費請求権の性質や位置付けを明確に規定し、養育費を取り決める際の考慮要素を具体的に規定することを検討すべきとしています。

また、離婚届と合わせて、養育費に関する取決めを自発的に公的機関に届け出る制度を設けることや、協議離婚時に養育
費を取り決めることを原則として義務付けることも検討すべきとしています。

離婚時に取決めができない事情がある場合には、暫定的に一定金額の具体的な養育費請求権を自動発生させる制度を設けることや、養育費請求権の権利者に代わって、国等の公的機関が権利者の養育費請求権を行使し、支払義務者から未払いの養育費を回収し、請求権者に交付するという強制徴収制度の創設も検討すべきとしています。

このように国としても問題点を十分に把握した上で、法整備や制度改定を行うべきとの方向性は有しているものの、未だ一定の時間はかかるものと推測されます。




🌸まとめ:養育費の問題で困った時は弁護士にご相談ください。

養育費不払いの問題は、離婚時に十分な協議ができないケースが多く存在することが本質であると思われます。


また、文書を交わさないケースがあることや、公正証書にしていないことも原因です。


きちんと取り決めを行い公正証書を交わしていれば「差し押さえに必要な条件を満たす場合は、給料の差し押さえが可能です。


特にお子さんのいらっしゃる離婚においては、公正証書化は必須と感じています。


しかし債務名義を持っていたとしても、上述の第三者からの情報開示手続きで勤め先や銀行口座を特定し、その後、各種書面の準備をし裁判所に申立てを行いますので、強制執行に必要な書類を揃えるなどご自身ですべてを準備、実行するのは難しい面があります。


まずは弁護士に相談し、アドバイスを受けることから始めてみてください。


一方前述の通り、最大の問題点は離婚時に相手ときちんとした交渉ができないことです。


この問題は現行制度では解決は難しいです。

可能であればやはり極力離婚の前に弁護士に現状を説明し、打つべき方策がないのか相談してみることが、最も現実的な対策と考えられます。