夫が別居を認めない中で別居を強行すると「同居義務違反」になるのか?
兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。夫婦関係が悪化している中では、離婚を前提に別居するという方法がとられる場合があります。しかし、妻が夫の意向を無視して別居を強行すると「同居義務違反」になりデメリットがあるのでしょうか?まとめてみましたのでご参考にされてください。
🌸同居義務とは何か?
民法では、夫婦に対し「相互扶助義務」や「同居義務」が定められています。
※民法752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない
基本的に夫婦は家族のベースとなる単位であり、同居を行い互いに生活を支え合う必要があります。
民法の規定を読むと、必ず同居しなくてはならないように感じますが、実は同居は絶対条件ではありません。
夫婦関係が極めて悪い場合にも同居が求められているわけではないのです。
例えば以下のようなケースでは、別居したとしても民法752条に抵触するわけではないとご理解ください。
・相手が暴力をふるう
・相手がモラハラに該当する言動を発している
・相手が不倫をした
・夫婦関係が悪化しており互いに別居して良いと思っている
・日常的に喧嘩が絶えない状態になっていて強い苦痛を感じている
では、どのようなケースで「同居義務違反」になっていまうのでしょうか?
🌸同居義務違反になり得るケースは?
では同居義務違反になり得るのは、どのようなケースを指すのでしょうか?
例えば以下のようなケースでは同居義務違反となり得ます。
・夫婦関係には特段問題がなかったのに、突然理由もなく家を出て行った
・結婚したのに理由もなく同居しない
・自由になりたくなって、突然勝手に家を出て行った
しかし、このように急に家を出て行ったとしても刑事罰が適用されるわけではありません。
また、強制的に同居させられるわけでもなく、相手が家庭裁判所に「同居調停」を申し立てて同居を求めることはできますが、調停に強制力がないので、無理に同居させることは事実上不可能です。
ただし問題となるのは、同居義務違反と認定され、扶助義務違反(生活費を支払わない、必要な介護を怠る等)もあった場合です。
この場合は、「悪意の遺棄(あくいのいき)=悪意を持ち義務を放棄すること」として、相手方に慰謝料を支払わなければならないケースもありますので、注意しておく必要があります。
🌸夫が別居を認めてくれない場合、別居しても大丈夫?
夫婦関係が悪化しているのに夫が別居を認めないケースで、妻は別居を強行しても大丈夫でしょうか?
これについてはケースバイケースですので、パターン別に解説していきます。
①夫婦関係の悪化が夫に原因がある場合
夫のDV(家庭内暴力)やモラハラ(言葉の暴力)、不倫、酒乱、借金など、夫婦関係悪化の原因が夫に起因する場合は、夫の了解なしに別居しても問題になることはなく、当然慰謝料も発生しません。
②夫婦関係の悪化がどちらに原因があるとも言えない場合
性格の不一致など、どちらが悪いとも言えないようなケースでも、夫婦関係が悪化しているという実態があるのであれば、多くの場合は同居義務違反を問われることはありません。
夫婦の関係が悪化し、日々の生活で会話もろくにないような状況であれば、別居を強行しても慰謝料を払う必要はないものと考えられます。
③夫婦関係の悪化が妻に原因がある場合
前述の通り、不倫など妻に原因があり、別居を強行したようなケースで、悪意の遺棄と認定されれば、慰謝料が発生する可能性があります。
このように、妻側に明確な原因がある場合以外は、別居を強行しても問題ない場合がほとんどです。
ただし、状況が微妙な場合などもありますので、別居する前に念のために弁護士などの専門家に相談されることをお薦めします。
🌸子どもがいる場合連れて行って大丈夫か?
離婚の際、子どもの親権問題で相手と対立するケースが多くあります。
別居の際に子どもを残して自分だけが出て行った場合、その後に親権を主張しても、相手が有利となる可能性が高くなるのが現状と言えます。
そのため、親権を望む場合には子どもは連れて行くべきなのですが、しかしこの行為が「子の連れ去り」と判定された場合には、相手から家庭裁判所で「子の引き渡し請求」などをされるケースもありますので注意が必要です。
もし親権問題が発生すると思われる事案で別居を希望される場合には、極力事前に弁護士にご相談されるよう強くお勧めします。
自分の判断で慌てて行動すると、逆に相手に親権を取られてしまうリスクを生むことになる可能性もあるのです。
🌸別居後の生活費は払ってもらえるのか?
夫婦には法律上、「相互扶助義務=互いに助け合うべき義務」があるので、収入の多い側は少ない側に生活費を支払う必要があります。
妻が夫の了解なく別居を強行した場合でも同様で、原則として生活費の請求は可能です。
請求できる生活費の相場も家庭裁判所で基準となる金額が設定されています。
しかし、もし夫が生活費の支払いに応じないような場合には、家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」を申し立てれば、裁判所で調停を行えますし、それでも相手が支払いに応じない場合は、「審判」という手続きで裁判所から相手に婚姻費用の支払い命令を出してもらうことができます。
基本的には、生活費を懸念して別居を断念する必要はないものとご理解ください。
🌸まとめ:迷ったり困ったりした場合は、弁護士にご相談ください。
別居が違法となるケースはまれですが、わかっていても別居するにはかなりの勇気がいるものです。
また、状況に照らし合わせても判断がつかない微妙なケースもあるのだと思います。
お子様がいらっしゃる場合などは、さらに迷いが膨らむのは当然のことです。
離婚問題には様々なことが付随しており、整理しなくてはならないことは膨大です。
ですので、別居をスタートさせる前に、一度弁護士などの専門家にアドバイスを求めておくことをお薦めいたします。
別居は離婚のスタートラインです。
その時点でゴールをしっかり見据えて対策を立てることが、その後有利に交渉を進めることにつながるのです。
当事務所でもご相談を承っておりますので、お気軽にご連絡ください。