認知症の相手と離婚はできるのか?
兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。配偶者が認知症を発症した場合、介護の問題や精神的な苦労など、様々な問題が発生します。特に元々夫婦仲が悪かったようなケースでは、認知症による負担増に耐えきれず、離婚を考える方もいらっしゃるかも知れません。しかし認知症が理由で離婚できるのでしょうか?
🌸認知症が理由で離婚したい時の問題点
配偶者が認知症を発症した場合には意思疎通が難しくなります。
離婚は原則として双方の合意に基づいて成立するものですので、相手が認知症で意思の疎通が図りづらい状態になっていれば、容易に離婚することはできなくなってしまいます。
しかし例えば、初期の認知症で症状も軽度なものであれば、離婚するかどうかの判断や、離婚によって生じる生活の変化なども理解できますので、協議離婚が可能な場合もあるでしょう。
一方、離婚への合意が得られなかった場合や、意思疎通が難しい中でも離婚したい場合は、調停や審判、裁判によって離婚を目指していくこととなります。
この場合のポイントは、現在の状況が法定離婚事由に該当するかどうかです。
🌸法定離婚事由とは?
裁判に進むと、裁判所は法的に離婚が認められるかどうかを判断します。
離婚の訴えを提起することができる場合として、民法770条1項は、以下のとおり規定しており、これらの5つを「法定離婚事由」と呼びます。
1.配偶者に不貞な行為があったとき
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき
3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
このいずれかに該当しなければ、裁判所は離婚を認めてくれないのです。
認知症が原因の場合、「4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が該当しそうに思えますが、実は認知症は過去の裁判例から見ても強度の精神病としては認められていないのが現状です。
判例では、アルツハイマー病に罹患した妻との離婚請求を認めたものがありますが、これは長期間にわたり夫婦間の協力義務などが果たされていないことなどから「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」(第5号)にあたるとして、離婚を認めたものです(平成2年9月17日長野地方裁判所判決)。
ですので、認知症だけでは離婚は難しいものの、これまでの状況によっては「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」で離婚が成立する可能性もあるのです。
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🌸認知症の相手との裁判
重度の認知症となり意思疎通ができない配偶者と裁判離婚をする場合、手続き上注意しなければならない点があります。
それは成年後見人の選任です。
成年後見人は、「判断能力を欠く状況にある者の財産管理や身上監護を担う後見人」であり、家庭裁判所に申し立てを行い成年後見人が選任されれば、成年後見人を相手方として離婚裁判を進めて行くこととなります。
裁判の中で留意すべきことの一つは、相手の将来設計に実際にこちらが配慮し努力していることを示すことです。
認知症の配偶者との離婚を簡単に認めてしまえば、相手の生活が不安定な状態になることが懸念されます。
そのため、裁判所では離婚を認めるかどうかを判断する際に、認知症の配偶者の将来についても十分に考慮しますので、できる限り事前に準備をしておくことが大切です。
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🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら弁護士にご相談ください。
認知症の相手との離婚では、裁判の場合に成年後見人の申し立てを行わなくてはならないなど、手続きなどもやや複雑ですし、また、これまでの状況が法定離婚事由に合致しているかどうかなど、大切なチェックポイントがいくつかあります。
スムーズに離婚手続きを進めるためには、一度弁護士に相談してみることをお薦めします。
専門家の目で全体像を確認してみることで、今後の進め方がわかってくる場合も多くあります。
当事務所でもご相談を承っておりますので、お気軽にご連絡ください。