親権と監護権の違いは?
兵庫県西宮市のフェリーチェ法律事務所代表弁護士の後藤千絵です。離婚問題で最もこじれることの一つは「親権」についてです。中には、離婚協議をスムーズに進めるために、親権と監護権を分属させるケースがあります。そのメリットやデメリットについてまとめてみました。
目次
🌸親権とは
🌸監護権とは
🌸財産管理権及び法定代理権について
🌸親権と監護権を分ける場合はどんなケース?
🌸監護権を分属した場合のデメリット
🌸監護権を分属させる場合の留意点
🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら専門家に相談を
🌸親権とは
子どもの身の周りの世話をし、躾や教育を行う。
2.財産管理権
子ども名義の預貯金等の財産管理を行う。
3.法定代理権
子どもが何らかの契約の当事者となる際に、子どもの代理として契約を締結する。
🌸監護権とは
親権から身上監護権を分離した場合、通常は「監護権」と呼ばれます。※民法820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
監護権では、民法上は監護教育権に加え以下の権利を規定しています。
1.居所指定権(民法821条)
子どもの居所を指定する権利であり、実質的には子供と暮らすことができる権利です。
2.懲戒権(民法822条)
必要に応じて子どもを懲戒する権利です。
3.職業許可権(民法823条)
子どもの就業を許可したり、取り消しや制限する権利です。
🌸財産管理権及び法定代理権について
親権の中の、監護権以外の二つについて、説明いたします。
「財産管理権」は子どもの財産の管理を行う権利です。
通常は子どもが多額の財産を所有するケースは稀ですが、相続を受けたような場合は財産管理は重要です。そして子どもが成人に達した時点で、親権者は管理の計算を行い、財産管理は子どもに移行します(民法828条)。
次の「身分行為の代理権」は、子どもの法律行為の代理を行う権利です。
例を挙げると、15歳未満の子どもの養子縁組の代諾や、相続の承認や放棄などの代理などがこれに当たります。
※この身分行為の代理については、身上監護権に含まれるという見解と、財産管理権に含まれるという見解の二つがあります。
🌸親権と監護権を分ける場合はどんなケース?
日本では子どもがいて離婚する場合には、父母のいずれかを必ず親権者として定めなければなりません。
一般的に親権者は、身上監護権、法定代理権、財産管理権の3つのすべてを持つこととなります。
しかしケースによっては身上監護権のみを他方に分属させることもあります。
例えば、親権は父、身上監護権は母というような形です。
これは、主として親権について争いとなった際に、なるべくスムーズに解決するために行われていることが多いです。
子どもが小さい場合などにおいては、これまでの監護実績などの現状が重視され、母親側がかなり有利となっています。
これは夫がフルタイムで勤務することが多く、妻が育児をするウェイトが高いため、家庭裁判所の「子供の福祉」という観点においては、子どもの現在の環境を変えたくないという方向に向かいがちであるためです。
特段の事情が無い限り、調停から裁判に進んでも、妻側が親権を獲得する可能性がかなり高いと言えます。
しかし裁判まで進むとかなり期間も長くなり、数年を要するケースもあります。
そこで、夫が強硬に親権を主張している場合、監護権を妻側が取得する代わりに、夫に親権を譲るという形で和解に持ち込み早期の解決を目指すことがあるのです。
妻側は実際に子どもと同居し育児ができるため、さほど大きなデメリットはありません。
それでも、妻側は時間をかけて争えば親権全体が取れる場合が多いため、夫側に譲るケースは多くはないようです。
🌸監護権を分属した場合のデメリット
監護権を分属した場合のメリットは、記載の通り早期の解決が可能という点ですが、デメリットはなんでしょう?
一つは戸籍上の問題です。
戸籍上は親権を有する非監護親が親権者として記録されるのみです。
戸籍謄本上には監護者の名前はどこにも出て来ないのです。
ですので、実質的には問題ないとしても不安を感じる方もいらっしゃると思います。
もう一つの問題は監護者が再婚するケースです。
離婚後に再婚する場合、子どもを再婚相手の養子とすることがよくあります。
しかし子供が15歳未満の場合は、養子縁組には法定代理人の承諾が必要となります(代諾養子縁組、民法797条1項)。
このため、親権者である相手方の承諾が必要です。
早期に離婚を進めるために相手に親権を渡した場合、相手方は簡単に承諾しないでしょう。
裏切られたような印象を持つ場合もあるのだと思います。
🌸監護権を分属させる場合の留意点
監護権を分属させる場合は、親権・監護権についての正式な合意書を弁護士などの専門家に作成してもらうことをお勧めします。
記載して来たように、いくつかのトラブルに発展する可能性があるため、口約束や簡易な書面ではなく、しっかりと取り決める必要があるからです。
また、養育費などの継続的な給付がある場合は、強制執行などが可能な公正証書とする方がさらに安心です。
また、親権者であっても面会交流が保障されているわけではないため、監護者との間で面会に関し意見が分かれ紛糾するケースも散見されます。
面会交流に関しても、頻度、時間、方法等を書面で取り決めておけば無用なトラブルを回避できます。
🌸まとめ:迷ったり困ったりしたら専門家に相談を
離婚時に大きくこじれる問題の一つがこの「親権」についてです。
監護権を分属して早期に解決すべきか、時間をかけても争うべきかについては、どのような「見通し」を持つかで変わります。
安易に一人で判断すると、思ったような結果とならないこともありますので、タイミングを見て弁護士などの専門家の意見を聞くのも有効な手段です。
離婚を専門に扱っている弁護士であれば、同様のケースなどでの様々な蓄積があり、的確なアドバイスや見通しを示してくれる可能性も高いものです。
当事務所でも無料相談を承っておりますので、お気軽にご連絡ください。